オンボーディング計画
マーケティング部 / 後任者が自走するまでの設計 / 研修資料の外側
この計画の位置づけ
研修資料が「何を知るか」を扱うのに対し、この計画は「どう自走するか」を扱う。
研修資料(全7章・60分×2回)は、会社・組織・業務・考え方・用語を渡すもの。読めば分かる形になっている。ただし、読んで分かることと、独りで回して結果を出すことは別物になる。この計画はその差を埋めるために置く。
研修資料は書き換えない。この計画は研修資料の外側に足すもので、両方を併用する。研修当日は従来どおり研修資料を使い、この計画は着任初日から独立して参照する。
1. 最終形態
2つの到達点
引き継ぎの話をするとき、2つの異なる状態が混ざりやすい。分けて置く。
| 引き継ぎ完了 | 最終形態 | |
|---|---|---|
| 状態 | 教わったことを、教わったとおりに回せる | 誰も教えていない改善を、自分で見つけて打ち続ける |
| 判定 | 1ヶ月サイクルを独りで回しきれたか | 資料に載っていないことをやり始めたか |
| 渡すもの | 手順・数値の見方・既存の改善策 | 手順が無い場面での判断基準 |
| 該当資料 | 研修資料の全7章 | 研修資料 第6章 + 本書 |
引き継ぎ完了はゴールではなく、スタートラインになる。この計画が目指すのは右側であって、左側は通過点として扱う。左側で止まった場合、業務は回るが伸びない状態になる。
最終形態の定義
マーケ部の数値を自分で分解し、誰の指示も待たずに改善対象を選び、仮説を立てて検証し、結果を出し続けている状態。
このとき、資料に書かれていない改善策を自分で作っている。書かれている改善策をなぞるだけの段階は、まだここに入らない。
この定義には3つの要素が入っている。
| 要素 | 意味 | これが無いと |
|---|---|---|
| 自分で分解する | 数値を段階に切り、歩留まりを出せる | 数値の増減に一喜一憂して終わる |
| 指示を待たない | 改善対象を自分で選び、着手できる | 上長の指示がないと止まる |
| 結果を出し続ける | 1回の成功ではなく、継続して回っている | たまたま当たった1回で終わる |
数値の向こうにいる人
マーケ部の最終KPIは個人情報登録数。ただしこの数字は、それ自体が目的ではない。
歩留まりを1ポイント上げる作業は、数字を動かす作業に見えて、実際には就活に困っている学生が何人この機会に届くかを動かしている。第2章で扱う「価値交換」は、ここで具体的な人の顔になる。
研修資料の各章を読むとき、その章の数値や業務が「最終的に誰の何を良くしているか」を1行で言えるか確認する。言えない業務があれば、それは目的が接続していないか、業務自体の見直しが要るかのどちらかになる。
2. 到達段階
着任から最終形態まで、6段階に分ける。各段階に合格ラインを置く。
各段階の所要期間は未確定。後任者の着任時期・既存スキル・引き継ぎ可能期間が決まっていないため、日数を置いていない。決まり次第、各段階に期間を割り当てる。順序と合格ラインは、期間が決まっていなくても有効になる。
前提を持つ
研修 第1〜3章会社が何者で、5事業がどう収益になり、どの部門が何を担っているかを説明できる。
合格ライン: 自社を一言で説明でき、学生側(マーケ→DM→CA→入社)と法人側(IS→FS→CS→採用)の2本の流れを図なしで描ける。
この段階で止まる典型: 自分の担当業務は分かるが、それが他部門のどこに渡るか説明できない。
追える
研修 第4・7章4チャネル(SEO・広告運用・SNS運用・サービスHP)それぞれの導線と、見る数値を把握している。用語が通じる。
合格ライン: 記事来訪→広告クリック→LP閲覧→個人情報登録→DMの電話→サービス利用の各段階について、どの数値をどこで取るか言える。
この段階で止まる典型: 数値の名前は知っているが、それがどのツールのどの画面から出てくるか分からない。
回せる
研修 第5章 + 実務日次・週次・月次の横断業務19項目を、指示なしで期日どおりに実行できる。
合格ライン: 1ヶ月サイクル(日次の数値集計と指示、週次の報告、月次の目標設定)を、聞かずに回しきる。
この段階で止まる典型: 決まった作業は回るが、数値が落ちたときに何もできない。ここが「引き継ぎ完了」の線になる。
直せる
研修 第6章 + 実務歩留まりが落ちた区間を特定し、資料にある改善策から仮説に合う1つを選んで実行し、前後比較で判定できる。
合格ライン: 改善を1サイクル完走する。改善しなかった場合に「失敗」ではなく「仮説の棄却」として次へ進める。
この段階で止まる典型: 資料にある改善策は打てるが、載っていない状況に当たると止まる。
決められる
本書 第3節決定権の範囲(第3節)を把握し、範囲内は確認せずに判断する。範囲外は判断材料を揃えた状態で上げる。
合格ライン: 「これは聞くべきか」で迷わない。範囲外を上げるとき、選択肢と推奨案がセットになっている。
この段階で止まる典型: 全部確認してから動く。あるいは逆に、範囲外を確認せずに動く。
自走する
本書 第4・5節引き継ぐ課題(第4節)に自分で着手し、資料に無い改善策を自分で作って打っている。資料を自分で更新している。
合格ライン: 誰も指示していない改善が動いている。かつ、その判断根拠が資料に追記されている。
この段階が最終形態になる。
この6段階は、後任者が自分の現在地を確認するために使う。上長が評価するための基準ではなく、本人が次に何をすべきか判断するための地図として置いている。
3. 決定権の範囲
何を自分で決めてよく、何を上げるべきかを先に置く。これが無いと、確認のコストを避けて動かなくなるか、確認すべきことを確認せずに動くかのどちらかになる。
以下の区分はたたき台であり、まだ確定していない。実際の決裁ラインと照合して確定させる必要がある。金額の閾値はすべて仮置きで、実際の予算規模を反映していない。
| 領域 | 区分 | 対象 |
|---|---|---|
| SEO | A | 記事テーマの選定、キーワード設計、記事内の導線配置、既存記事のリライト |
| SEO | B | サイト構造の変更、新規カテゴリの追加 |
| 広告運用 | A | クリエイティブの差し替え、訴求の変更、配信時間帯・ターゲティングの調整 |
| 広告運用 | B | 既存媒体内での予算配分の変更 |
| 広告運用 | C | 新規媒体の追加、月間予算総額の変更 |
| LP・HP | A | 既存LPのコピー・CTA・フォーム項目の変更 |
| LP・HP | C | 新規サービスHPの立ち上げ |
| 改善施策 | A | 改善対象の区間選定、仮説の設定、打つ施策の決定 |
| 数値・目標 | A | 日次の集計方法、レポートの形式、ダッシュボードの構成 |
| 数値・目標 | C | 月次・四半期の目標値の設定 |
| 体制 | A | メンバーへの日次の指示、業務の割り振り |
| 体制 | C | 外注先の新規契約、採用の可否 |
| ツール | B | 無料ツールの導入 |
| ツール | C | 有料ツールの新規契約、既存ツールの解約 |
A が最も多くなるように置いている。改善のサイクルを回す部分(何を直すか・どう直すか)はすべて A に入れてある。確認が要るのは、金銭が動くものと、後戻りコストが高いものに限る。
4. 引き継ぐ課題
ここに並ぶのは、引き継ぎ元が解ききれなかった問題。資料の欠陥として隠すのではなく、後任者が最初に取り組む対象として明示的に渡す。
研修資料の「付録:未確定事項」と同じ内容を扱うが、位置づけが違う。付録は「この資料に書けなかったこと」の一覧で、こちらは着手対象のリストになる。
未着手の領域
SNS運用が停止している
アカウントは保有しているが、現在は運用していない。再開予定はあるが、媒体・アカウント数・再開時期・担当・どの媒体から動かすかが、すべて未定のまま残っている。
サービスHPが1つしか無い
稼働しているのは人材紹介サービスのHPのみ。他の4サービス(イベント・逆求人・YouTube番組・採用コンサル)はHPを持ちたいが手が回っていない。次にどのサービスのHPを作るか、着手時期が未定。
実態照合が要るもの
広告運用23項目・サービスHP14項目が未照合
研修資料に載っている業務項目は、提案リストをそのまま確定させたもの。実際の運用と一致しているか照合していない。実務に入った後、やっていない項目・逆に漏れている項目が出る可能性がある。
第5章の運用詳細が埋まっていない
横断業務19項目は列挙できているが、実行に必要な具体が抜けている。定例MTGの曜日・時間、経営層への報告フォーマットと提出先、日次集計に使うツールと手順、不定期業務の発生頻度の目安。
演習用の実データが未取得
研修資料の演習6-5(実データ演習)で使うデータが取得できていない。架空の数値で代替しない方針のため、演習が未完のまま残っている。
言語化できていないもの
法人側の段階数値の呼び方が無い
学生側(マーケ→DM→CA→入社)は各段階の数値に呼び名があるが、法人側(IS→FS→CS)の段階数値をどう呼ぶかが決まっていない。共通言語が無いため、法人側の歩留まりを議論できない状態になっている。
目的の置き方を間違えた実例が無い
研修資料 6-1 は「目的の置き方」を扱うが、失敗例が入っていない。正しい置き方だけを読んでも、実際に間違えている状態を自分で検知できない。
SEO・広告以外での因数分解の実例が無い
因数分解・比較・PDCA の説明は SEO と広告運用を例にしている。SNS運用・サービスHPでの適用例が無いため、他チャネルへ展開するときに手本が無い。
各業務の具体的な手順書が無い
研修資料は第4章・第5章で業務を列挙するが、手順は扱っていない。SEO 22項目・広告運用 23項目・横断業務 19項目、合計64項目の手順が未整備。
S5(自走する)の合格ラインは「誰も指示していない改善が動いていること」。この節の課題は、その最初の着手対象になる。解いたら、この節から消して第5節の手順で資料へ反映する。
5. 資料の育て方
この計画と研修資料は、完成品ではなく引くための辞書として扱う。頭から通読するのは最初の1回だけで、以降は必要なときに該当箇所を引く。
追記のルール
| 起きたこと | どこへ書くか |
|---|---|
| 業務で判断に迷い、答えを出した | 本書 第3節(決定権の範囲)に行を足す |
| 資料に無い改善策を打って、効いた | 研修資料 第6章「区間別の改善策」に足す |
| 打って効かなかった | 同じ場所に、効かなかった条件つきで足す |
| 第4節の課題を1つ解いた | 第4節から消し、該当する研修資料の本文へ反映する |
| 実態と資料が食い違っていた | 資料を実態に合わせて直し、直した日付を残す |
| 誰かに口頭で説明した | 説明した内容を該当章に足す。同じ説明を2回しない |
口頭で答えた内容は、答えっぱなしにせず資料へ戻す。同じ質問が2回来る時点で、それは資料の欠落になる。追記を溜めずにその場で入れることで、資料が実態から離れなくなる。
効かなかった施策を残す理由
改善策の一覧は、効いたものだけを載せると同じ失敗が繰り返される。効かなかった施策を、条件つきで残す。
書き方は、施策・打った条件・結果の3点で足りる。「LP のファーストビューを◯◯に変更 / 登録率 X% の状態で実施 / 変化なし」の粒度で残す。
更新の頻度
定期的な更新日は置かない。気づいた時点で足す形にする。定期更新にすると、更新日までの間に気づいたことが失われるうえ、更新自体が業務になって続かなくなる。
付録 この計画の未確定事項
本書の作成時点で確定していない項目。推測で埋めていない。
| 項目 | 確定に必要なもの |
|---|---|
| 各段階(S0〜S5)の所要期間 | 後任者の着任時期、既存スキル、引き継ぎ可能期間 |
| 決定権の範囲(第3節)の区分 | 実際の決裁ラインとの照合 |
| 予算・金額の閾値 | 実際の予算規模。現在の表は金額を書いていない |
| 後任者が実在するか | 採用・配置の決定。本書は特定の人物を前提にしていない |
| S2 到達の検証期間を取れるか | 引き継ぎ元の退職日からの逆算 |
| 各段階の合格ラインを誰が判定するか | 引き継ぎ体制の決定。現在は本人の自己確認を前提にしている |
S2(回せる)の検証期間が取れるかどうか。後任者が独りで1ヶ月サイクルを回しきる期間を、引き継ぎ元がいるうちに確保できない場合、引き継ぎの成否が実測できないまま退職することになる。着任時期が決まり次第、最初に確認する。